大雲好日日記-64 「ある編集者の話」

ある編集者の話(10/10)

 

紫式部(禅塾お花畑)

 

彼は現在、フリーの編集者をしている。

もともと在阪の出版社に勤めていたが、

身体を壊してしまい、フリーの編集者に転身したのである。

 

編集者と言えば、

出版社の規模によっても違うが、

普通は本の企画を専らの仕事とする。

 

編集者は企画の後に、適当な執筆者を選定し、

その人に原稿を依頼し、書き上がってくるのをひたすら待つのである。

しかし、彼の場合はそれとは違っていて、

自分で本の企画をし、自分で原稿を書くのである。

 

そして、原稿が出来上ったら、その原稿を本にして

出してくれそうな出版社を探すことになる。

それが一苦労なのである。

なにせ昨今の電子媒体の普及などで、

出版業界が全般に苦境にたたされているからである。

 

特に持ち込み原稿の場合、

本にして「売れる」原稿でなければ、

出版社の方はおいそれとは首を縦に振ってくれない。

 

彼が書くのは、すでに出版された彼の本のタイトルで示すと、

たとえば『ぼくの古本探検記』のような古本にまつわるもの、

それから『著者と編集者の間』のような本の編集に関係したもの、である。

だから内容が特殊でマニヤックなところがある。

 

こうした事情が彼の書く原稿の出版をいっそう難しくしている。

それでも彼はその種の本をこれまで20冊近くも出版にこぎつけている。

これは大変ことで、わたしは感服するばかりである。

 

彼は新しい本を出すと、いつもわたしに一冊送ってくれるのだが、

今回また『タイトル読本』という新著を贈呈してもらった。

これは文筆業を生業とする作家ら約50名のタイトル論を集めた本で、

彼らが本のタイトルをつけるのに如何に苦労しているか、

その楽屋裏を覗かせてもらっているようで、

本好きな人や文学好きな人には、たまらなく魅力的な書物になっている。

 

ちなみに、その中でわたしがとくに面白く読んだのは、

田辺聖子、浅田次郎、小川洋子、群ようこ、内館牧子、の文章だった。

それから第Ⅳ章の編集者の立場から書かれたものも、

昔ちょっと編集の仕事にたずさわった関係で興味深く読んだ。

 

最後になったが、文中の「彼」とは、

私の敬愛する古くからの友人、高橋輝次さんのことで、

ここで紹介した本は、『タイトル読本』(左右社、2019.9.30.)でした。

 

最近の投稿

大雲好日日記

カテゴリ一覧

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です